名脇役“おちょやん”浪花千栄子の演技が光る日本映画10選

名脇役“おちょやん”浪花千栄子の演技が光る日本映画10選

2020年度後期の朝ドラ「おちょやん」のモデルとなった女優・浪花千栄子。「大阪のお母さん」とも言われていますが、映画ファンからすると日本映画黄金期の名脇役として、溝口、小津、黒澤など名監督の映画に出演している印象が強くあります。

そこで、朝ドラで注目されている浪花千栄子が出演する名画10本を紹介します。

浪花千栄子と映画

浪花千栄子は1926年に香住千栄子の名で『花川戸助六』で銀幕デビュー。1929年までの間に7-8本の映画に出演しています。その1929年に松竹家庭劇の女優となり、舞台役者として活動、この間は映画出演はありませんでした。

第二次大戦後、松竹新喜劇と名前を変えてからも看板女優として活躍しますが、1951年に退団、しばらく身を潜めていたものの1952年から積極的に映画に出演し始めます。戦後最初の出演作は『瀧の白糸』(大映)で、その後溝口健二、小津安二郎、黒澤明、木下恵介といった名監督に脇役として重宝され、生涯では約150本に出演しました。

祇園囃子


祇園囃子

芸者の娘栄子は、母を亡くし、叔父に邪険にされ、零落した父親を頼ることもできず、母の昔の仲間を頼って祇園にやってきた。一軒の館を構える芸者美代春は保証人のなり手もない栄子を芸者として仕込むことに決めた。一年あまりの稽古を終え、美代春の妹美代栄としてはれて舞妓になった栄子だったが、その世界ははたから見るほどきれいなものではなかった…

溝口、宮川に脂の乗り切った木暮美千代、そして出演2作目で若々しい若尾文子と役者はすっかりそろい、駄作が生まれるはずもない。お茶屋の女将を演じた浪花千栄子がブルーリボン賞助演女優賞を受賞している。

1953年,日本,85分
監督:溝口健二
原作:川口松太郎
脚本:依田義賢
撮影:宮川一夫
音楽:斎藤一郎
出演:木暮実千代、若尾文子、河津清三郎、斎藤英太郎、浪速千栄子

女の園


女の園

京都の正倫女子大学、良妻賢母の教育をモットーとするこの学校の学則は厳しく、特に寮母の五条真弓はことあるごとに学生たちに厳しく当たっていた。そんな中、出石芳江は勉強についていけず、東京の恋人との関係も非難されて神経衰弱に陥りつつあった。また財閥の娘である林野明子は学校から特別扱いされている自分に反発するように学校の改革運動に没頭していた。

女性の解放、労働運動など時代の空気を強く反映した作品。坂東妻三郎の遺児・田村高広の映画初出演、高峰秀子と高峰三枝子の初顔合わせなど話題は豊富。久我美子の好演も光る。浪花千栄子は校母の大友女史を演じる。

1954年,日本,104分
監督:木下恵介
原作:阿部知二
脚色:木下恵介
撮影:楠田浩之
音楽:木下忠司
出演:高峰三枝子、高峰秀子、浪花千栄子、岸恵子、久我美子

山椒大夫


山椒大夫

時は平安末期、農民の窮乏を救うために鎮守府から咎を受け流された平正氏の妻玉木とその子厨子王と安寿は友をひとり連れての旅の途中、物騒など言う土地で人さらいにあい、玉木は佐渡の売春宿へ、厨子王と安寿は丹後の山椒大夫の荘園に奴婢として売られてしまった。厨子王と安寿はひたすら10年間堪え続けていたが、新しくやってきた娘の口から、彼ら自身のことが歌われた歌を聴く…

森鴎外が古い説話を小説化した原作を、さらに再解釈し溝口が映画化した作品。脚本には依田義賢に加えて八尋不二が参加し、重厚な物語世界を描き出している。浪花千栄子は厨子王たちの女中・姥竹を演じる。

1954年,日本,124分
監督:溝口健二
原作:森鴎外
脚本:八尋不二、依田義賢
撮影:宮川一夫
音楽:早坂文雄
出演:田中絹代、香川京子、花柳喜章、進藤英太郎、河野秋武、浪花千栄子、見明凡太朗、菅井一郎

二十四の瞳


二十四の瞳

昭和初期、瀬戸内海は小豆島の小さな村、子供たちは本校に通うまでの3年間を岬の分教場で過ごす。その分教場に新しい先生がやってきた。その大石先生は洋服で自転車に乗って分教場にやってくるハイカラな先生だった。もう一人の先生や父兄たちはそんな先生をなかなか受け入れようとしないが、とうの大石先生は子供たちに明るく接し、子供たちも先生を受け入れていったが…

映画化の2年前に書かれた壺井栄の小説の映画化。戦争の記憶が生々しい時代には人々の心に迫る感動作である。今見てもその叙情的な物語は感動を誘わずにはいない。浪花千栄子は飯屋のおかみさんを演じる。

1954年,日本,152分
監督:木下恵介
原作:壺井栄
脚本:木下恵介
撮影:楠田裕之
音楽:木下忠司
出演:高峰秀子、天本英世、笠智衆、浦辺粂子、田村高廣、月丘夢路、浪花千栄子

夫婦善哉


夫婦善哉

化粧問屋の若旦那柳吉は売れっ子芸者の蝶子に入れあげ、父親に勘当されてしまう。柳吉は蝶子とふたり駆け落ちすることにし、柳吉に惚れ込んでいた蝶子もそれを受け入れて二人で暮らし始めた。しかしもともとがボンボンの柳吉は働きもせず、蝶子は再び芸者として働き始める。家にいつかは帰れると思っていた柳吉だったが、妹の筆子が婿養子を迎えることを知って絶望してしまう…

織田作之助の名作『夫婦善哉』の映画化。森繁久彌と淡島千景が微妙な関係の二人を好演。浪花千栄子は周旋屋のおきんを演じる。

1955年,日本,121分
監督:豊田四郎
脚本:織田作之助
撮影:三浦光雄
音楽:團伊玖磨
出演:森繁久彌、淡島千景、司葉子、浪花千栄子、田村楽太、三好栄子

蜘蛛巣城


蜘蛛巣城

戦国時代、難攻不落の蜘蛛巣城の城主・都築国春に使える二人の武将鷲津武時と三木義明は敵の襲撃を追い払い、城主にそれを伝えるため城に向かった。しかし慣れているはずの城下の森で迷ってしまった。二人は物の怪の声をきき、その声を追っていくと、そこには不思議な老婆がいた。そしてその老婆は、二人の未来について予言を始める…

シェイクスピアの『マクベス』を戦国時代に置き換えるという大胆なことをした黒澤明。言われてみれば『マクベス』という感じだが、基本的にはいつもどおりの時代劇。圧巻はラストシーン。内容は明かせませんが…

浪花千栄子は“物の怪”を怪演した。

1957年,日本,110分
監督:黒澤明
原作:ウィリアム・シェイクスピア
脚本:小国英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明
撮影:中井朝一
音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、山田五十鈴、千秋実、志村喬、浪花千栄子

彼岸花


彼岸花

友人の娘の結婚式に出席した平山は自分の娘もそろそろ嫁にやる時期だと考え、娘の縁談を進めようとし、娘の節子も特にいやな顔をしなかった。そんな時、京都から佐々木親子が訪ねてくる。その娘幸子も年頃で母親はいい縁談を探しているが、娘はあまり乗り気ではない。そこで節子と幸子は同盟を結んでお互い困ったときには助け合おうと話し合う…

父と娘の関係を描いた小津後期の作品のひとつ。小津はこの作品に山本富士子を起用するために、交換条件として大映で『浮草』を撮ったといういわくつきの作品。

浪花千栄子は山本富士子演じる幸子の母役。

1958年,日本,118分
監督:小津安二郎
原作:里見弴
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
出演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、高橋貞二、山本富士子、桑野みゆき、笠智衆、浪花千栄子、佐田啓二、久我美子

華岡青洲の妻

華岡青洲の妻

田舎の武家の娘である加恵(若尾文子)は近くの田舎医者・華岡直道の評判の妻であるお継(高峰秀子)に憧れを抱いていた。華岡家の息子・青州に妻にと請われた加恵は父の反対を押し切って華岡家に嫁いだ。最初は仲睦まじくやっていた加恵とお継だったが、留守にしていた夫の雲平(青洲)が帰ってくると、徐々に関係に変化が現れてくる…

江戸時代の実在の医者華岡青洲を描いた有吉佐和子のベストセラー小説の映画化。とはいっても増村色がかなり色濃く、物語も映像もまぎれもなく増村保造という作品。

浪花千栄子は加恵の乳母・民を演じる。

1967年,日本,100分
監督:増村保造
原作:有吉佐和子
脚本:新藤兼人
撮影:小林節雄
音楽:林光
出演:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、浪花千栄子、杉村春子(語り)

悪名


悪名

松島の遊郭で暴れていた土地のやくざ吉岡組の貞を、その遊郭の琴糸のところに遊びに来ていた朝吉がぶちのめした。そのことで組の親分吉岡に認められた朝吉は吉岡組の客となるが、琴糸の足抜きをしようとして失敗してしまう…

当時のベストセラーを大映の職人監督田中徳三が映画化。カメラは宮川一夫、勝新と玉緒の共演など、見どころもいろいろ。

浪花千栄子はとある島のヤクザ者を束ねる旅館の女将という役どころで登場。

1961年,日本,94分
監督:田中徳三
原作:今東光
脚本:依田義賢
撮影:宮川一夫
音楽:伊福部昭
出演:勝新太郎、田宮二郎、水谷良重、中村玉緒、中田康子

グラマ島の誘惑

グラマ島の誘惑

第二次大戦中、グラマ島という無人島に船が着いた。しかし、船は2人の“宮様”を含む3人の軍人を残して沈んでしまった。そしてその島に残ったのはその3人の軍人と報道部隊の2人の女性隊員、5人の慰安婦、1人の戦争未亡人、そして1人の原住民だけだった。

日活を離れた川島雄三の後期のコメディ。かなり破天荒な映画の作りで、いい仕上がりのB級映画という趣き。

浪花千栄子は慰安婦の引率者役。

1959年,日本,106分
監督:川島雄三
原作:飯島匡
脚本:川島雄三
撮影:岡崎宏三
音楽:黛敏郎
出演:森繁久彌、フランキー堺、三橋達也、桂小金治、岸田今日子、浪花千栄子