セックスは滑稽だ。ロマンポルノリブート作『風に濡れた女』で塩田明彦監督が描いたセックスと人生のおかしみ。

セックスは滑稽だ。ロマンポルノリブート作『風に濡れた女』で塩田明彦監督が描いたセックスと人生のおかしみ。

海辺で男(高介)が本を読んでいると、自転車に乗った女(汐里)がやってきて、そのまま海に突っ込む。海から上がった女は濡れたTシャツを脱ぎ、裸の胸をさらしてTシャツを絞る。

そんな始まり方も「ロマンポルノ」なので驚くことはない。しかし、このあとの展開は「ポルノ映画」のイメージとは異なり、映画らしい余白を含んだ「純文学」的なものだ。

シュールなコメディとしてのセックス

この映画にはストーリーがないというか、物語の目的地がない。セックス狂いにみえるいわゆるあばずれ女がいて、その女とのセックスを拒む男がいる。その周りに女とセックスする男たちがいる。ただそれだけ。ストーリーを支えるのはその女と男がいつセックスをするのか、それだけではないか。

それでもこの映画は面白い。別に男女の駆け引きが面白かったり、一つ一つのエピソードが面白いわけではない。さまざまなセックスを描くことでみえてくる、セックスの滑稽さが面白いのだ。

特に、最後に3組のセックスがモンタージュのように織りなされるシーンを見ると思う。セックスは滑稽だと。

この3組のセックスはそれぞれ目的が違う。一組は愛、一組は肉欲、一組は復讐。目的は違えど誰もが真剣な表情で己の欲望を満たそうとしている。その真剣さがなんとも滑稽だ。そしてそれが滑稽に見えるのは、人生そのものが滑稽だからだ。

(C)2016 日活

滑稽な「人生」

人間は生きる上で目的地を見つけそこに向かおうとする、そしてそれを人生だという。人生に意味を見出し、価値あるものにするために目的地に向かうのだ。誰もが真面目に人生に向き合い、目的地を探し、目的地に向かう。それが人生だと教えられる。

しかし、その中にセックスが入り込むと、セックスはときに目的地を見失わせ、時にそれ自体が目的地になり、あるいは目的地を見つけるきっかけになる。にもかかわらず、人生におけるセックスの意味が語られることはあまりない。

それは、セックスという獣的なものが入り込むことで人生という理性的なものの意味が揺らぐからではないか。

でも本来、セックス抜きに人生を語ることはできないはずで、だからセックス抜きに語られる人生は滑稽なのだ。

そもそもこの映画の主人公高介は、一人で考えるために女から離れられる場所を選んで世捨て人のような暮らしを始めたのだという。彼の生き方は滑稽な人生そのものではないか。セックスから離れたら真剣に人生のことを考えられるのか、そんなことはない。この映画から伝わってくるのはそんなメッセージだ。

切り離せないセックスと人生

この映画を見て最初に思うのはおそらく「汐里の目的がわからない」ということではないか。でもそれこそがこの映画の真意なのではないか。

彼女の目的はセックスそのものであり、だからセックスを切り離した人生論からすると、彼女には目的がないことになる。

それが顕著に見られるのは、演劇のシーン。劇の演出をしている高介の元カノが汐里に即興演技を仕掛けると、汐里はその設定に乗りながら彼女をセックスる方へと引き込んでいく。女は性的興奮を覚えながら最後に「何なのあの子は」と吐き捨てる。

彼女には意味がわからないのだ。なぜなら演劇とセックスを切り離しているから。だから彼女の演劇は面白くない。

でも彼女もこの経験によって解き放たれたのではないか。それが最後のセックスイーンにつながるのだろう。

自分を「愛の狩人」と呼ぶ汐里はもしかしたら、人々に本当の人生の意味をわからせる旅をしている女なのかもしれない。

(C)2016 日活

映画『風に濡れた女』の概要

『風に濡れた女』は、1970年代から80年代に製作された「日活ロマンポルノ」を復活させようと企画された「日活ロマンポルノ リブートプロジェクト」の中の1本。

このプロジェクトではロマンポルノを撮ったことのない5人の監督(園子温・中田秀夫・行定勲・白石和彌・塩田明彦)によって5本の新作が制作された。

塩田明彦監督は『どろろ』『月光の囁き』『黄泉がえり』などの作品があり、ポルノ映画には黒沢清監督の『神田川淫乱戦争』に助監督として参加している。

日活ロマンポルノとは

そもそも日活ロマンポルノは1970年代に一般映画の興行の落ち込みを受けて日活がエロを取り入れた低予算映画のシリーズとして展開していたものだ。

ポルノ映画であるものの、「10分に1回の性行為シーンを作る」「上映時間は70分程度」などの条件を除いては成約がなく、若手の監督のチャレンジの場ともなって、石井隆、崔洋一、周防正行、相米慎二、森田芳光らが商業映画デビュー前にロマンポルノを監督している。1980年代に入るとアダルトビデオに押されるようになり、1988年に制作は終了した。

2000年代に入ると、ロマンポルノを映画として評価する機運が高まり、2015年に28年ぶりの新作を制作する「日活ロマンポルノ リブートプロジェクト」が開始され、5作品が製作された。『風に濡れた女』はその中の1本。

2016年/日本/76分
監督:塩田明彦
脚本:塩田明彦
撮影:四宮秀俊
音楽:きだしゅんすけ
出演:間宮夕貴、永岡佑、テイ龍進、鈴木美智子、中谷仁美

『風に濡れた女』が見られるVOD

映画『風に濡れた女』が見られるVODは以下のとおりです(2021年2月現在)。

2,189円/月
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『風に濡れた女』の次に見るべき映画

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