高峰秀子の純愛を木下恵介がゆったりと描く『女の園』

高峰秀子の純愛を木下恵介がゆったりと描く『女の園』

映画『女の園』の概要

京都の正倫女子大学、良妻賢母の教育をモットーとするこの学校の学則は厳しく、特に寮母の五条真弓はことあるごとに学生たちに厳しく当たっていた。そんな中、出石芳江は勉強についていけず、東京の恋人との関係も非難されて神経衰弱に陥りつつあった。また財閥の娘である林野明子は学校から特別扱いされている自分に反発するように学校の改革運動に没頭していた。

女性の解放、労働運動など時代の空気を強く反映した作品。坂東妻三郎の遺児・田村高広の映画初出演、高峰秀子と高峰三枝子の初顔合わせなど話題は豊富。久我美子の好演も光る。

1954年,日本,137分
監督:木下恵介
原作:阿部知二
脚本:木下恵介
撮影:楠田浩之
音楽:木下忠司
出演:高峰秀子、高峰三枝子、久我美子、岸恵子、東山千栄子、田村高広、浪花千栄子

木下恵介の日本的な描写

木下恵介はこの年、この作品と『二十四の瞳』という2本の高峰秀子主演作品を撮っている。この2本の作品を見ると、木下恵介の映画のテンポに高峰秀子がはまると、すごく大仰というか、ドラマティックすぎる展開になるように見える。

木下恵介監督は同時代のほかの監督と比べてもゆっくりとしたテンポの作品を作る。それが生み出す効果はさまざまあるが、その1つは非常に和風な感じがするということだ。もちろんそもそも映画のモチーフが日本的であるというのもあるが、この作品などはもっとモダンに撮ることも可能だったはずである。しかし、テンポを落として、しかも高峰秀子を主役に据えることで非常に日本的な物語になる。もう1つの撮り方として久我美子と岸恵子を主役にしてテンポを速めて、いわゆる学園ものっぽくとることもできたはずなのだが、この作品はそうはならない。学園が中心ではあるが、その本質は純愛物語であり、時代と社会に抑圧される愛の形を描いた物語である。そして、その主人公たる高峰秀子と対立する軸にいるのは高峰三枝子なのである。

年齢も近く、ともに実力十分の女優であり、くしくも同じ苗字であるこのふたりの女優の対決はまさに見ごたえ十分。しかも、映画の上では直接対決することはほとんどなく、ふたりの愛をめぐる運命の違いが描かれるだけなのだ。この控えめな対決の構造と、ゆっくりとしたテンポの展開で、現代的な視点から見ると、退屈と見えてしまう向きもある。

女の園と純愛

ここで効いてくるのが久我美子と岸恵子である。特に久我美子がいい。ただ画面をにぎわすだけのアイドルではなく、ふたりの実力派の女優とは違うキャラクターとして物語に深くかかわっていく。おそらく30代の設定である高峰三枝子、他の学生より3年年嵩の高峰秀子、そしてお嬢さんとして新しい時代の思想を十分に受け取ってきた久我美子、その3人の対象性が物語を面白くして行く(そう考えると、岸恵子は画面を賑やかしているだけなのかもしれないという気もしてくるが…)。

この映画は高峰秀子主演の純愛物語であって、学園物語ではないので『女の園』というタイトルはそぐわないように思えるのだが、このように女たちの対照的な立場を比較しているという点から見れば、別の意味で『女の園』というタイトルがふさわしいのかもしれないと思う。具体的な空間としての「女の園」ではなく、「女の園」という言葉が示唆する仮想的な空間としての女たちの世界。その世界も変化し、女たちの考え方も変化していく。そのことから生まれる悲劇がこの映画には描かれているのだと思う。

『女の園』が見られるVOD

2021年1月現在

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