黒澤明のデビュー作『姿三四郎』はスポ根の原点
黒澤明が戦中に柔術家を主人公に撮ったデビュー作。姿三四郎が成長し徒手空拳で戦う姿に当時の少年達は熱狂した。今で言うスポ根ものの原点かもしれない。
映画『姿三四郎』の概要
柔術を志していた三四郎は入門に行った師匠の闇討ちについていく。そこで何人もの達人をばったばったと投げる矢野正五郎にほれ込み、柔道の道に進むことにした。厳しい修行でみるみる強くなった三四郎は警視庁主催の他流試合に出場することになるが…
脚本家としていくつかの作品の脚本を書いていた黒澤の監督デビュー作。戦時中に作られた作品だが、当時の少年たちは姿三四郎の姿に熱狂し、空前のヒットとなったらしい。
しかし公開翌年の再上映に際して、検閲によって15分ほどカットされ、戦争後もカットされた部分のフィルムは発見できず、現存するのは15分短いバージョンに解説をつけたものだけとなっている。
1943年,日本,97分
監督:黒澤明
原作:富田常雄
脚本:黒澤明
撮影:三村明
音楽:鈴木静一
出演:藤田進、大河内伝次郎、月形龍之介、志村喬、轟夕起子
黒澤流成長物語の原型
若き黒澤監督は力強い作品を作った。しかし当時の日本を覆っていた雰囲気には逆らわなかったのか、はなから逆らう気がなかったのか、この映画からは日本のすばらしさとか強さというものが伝わってくる。徒手空拳でも外国に負けはしないというようなメッセージがこめられていると見ることもできる。もちろんこれはまったく批判ということではなく、時代性への感慨というだけです。
さて、映画全体しては非常にわかりやすく、単純明快ですが、この映画から黒澤作品全体を通してテーマとなっていると考えられるのは、師匠と弟子の関係。それは必ずしも師匠と弟子でなくてもいいけれど、先輩と後輩とか、父親と息子とか、そういう形で繰り返し黒澤作品に登場するテーマである。それがこの作品の正五郎と三四郎の間にも見られる。素質はあるが精神的なものが足りない弟子を師匠がうまくコントロールして成長させるという物語。ほとんど同じといえるのは『赤ひげ』で、あとは『野良犬』などもその変形。この物語形態というのは単純に面白い。成長物語というのは人に勇気も与えるし、ユーモアを織り交ぜることもできるし、一種のヒーローものとして語ることもできるわけで、料理しやすい素材だったのかもしれない。
あと、増幅された環境音が多く使われているのが印象的。黒澤映画といえばなんとなく音楽をうまく使っているという印象だが、この映画では音楽はあまりなく、環境音が強調されている。虫の声、風の音、などなどこれはある意味では極端な環境(豪雨、強風など)を好む黒澤のスタイルの萌芽であったのかもしれない。以後の作品では音で強風を表現するというのはあまり見た覚えがない。
なんとなく、新しいものをつくろうとはしているけれど、戦争中という問題もあり、それほど大胆には切り込めないという口惜しさと、それでも従来のスタイルを利用して力強いものを作りうる力量との両方が伝わってくる感じ。
村井と向き合ったときに、三四郎がひざのほころびを気にするところなどはいかにも黒澤らしいという気がした。
なんだか、スポ根ものの原点という感じもし、当時の少年が熱狂したというのもよくわかる。
『姿三四郎』が見られるVODは
映画『姿三四郎』が見られる動画配信サービスは以下のとおりです(2020年2月現在)。
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