群像劇の元祖『グランド・ホテル』の“映画が匂い立つ瞬間”に映画の本質を見る
映画『グランド・ホテル』の概要
ベルリン随一のホテル“グランド・ホテル”には、様々な人が滞在している。余命いくばくもないと診断されたクリングラインは全財産をはたいて贅沢をしようとやってくる。彼に親切にする男爵はロシア人のプリマドンナ、マダム・グルシンスカヤを追いかけつつ、仕事にやってきた速記者にも声をかける伊達男だ。
後に、特定の場所に集まった様々な人々の人間模様を描く手法を“グランド・ホテル形式”と呼ぶようになったおおもとの映画。さすがに各登場人物も魅力的で、展開もダイナミック、まさに群像劇の教科書という感じ。
Grand Hotel
1932年,アメリカ,113分
監督:エドマンド・グルーディング
原作:ヴィッキー・バウム
脚本:ウィリアム・A・ドレイク
撮影:ウィリアム・H・ダニエルズ
出演:グレタ・ガルボ、ジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、ウォーレス・ビアリー、ライオネル・バリモア
映画の面白さは見るものの生理に働きかけること
あまりにたくさん映画を見て、それについて書いていると、ふと「映画の面白さとは何だろうか」と考えることがある。もちろん、何が面白いと感じるかは人それぞれなわけだけれど、どのような作品を面白く感じるか、あるいはどのような作品に魅かれるか、ということには共通のものがあるのではないかと思うわけだ。
この作品を見ながら思ったのは、映画の魅力とは観る者の生理に働きかけることではないかということ。スターの魅力にはっとして心臓がドキッとしたり、意外な展開に鼓動を早めたり、サスペンスに手に汗を握ったり、もちろん感動に涙したり、あるいは心地よさに転寝してしまったり、そんな生理現象を引き起こすようなのが映画の魅力なのではないか。
この映画は“グランド・ホテル形式”の名の通り、たくさんの登場人物が現れ、なかなか誰か一人に感情移入するということは出来にくい。余命わずかで全財産を使い果たそうと贅沢をするクリングラインも好人物だし、生活に困って裏がありそうな男爵も憎めないし、タイピストのフレムヒェンも魅力的だ。だが、その誰が主役というわけではなく、誰かひとりの視点から物語り全体を見渡すということは出来ない。
しかし、それでも今あげた3人が物語の中心であり、彼らの関係と、その周囲とのかかわり方によって物語が展開して行くことで、作品としてのまとまりをうまく生み出している。そして、終盤になって男爵に“事件”が起きるときその驚きとそれからの展開への予感で心臓の鼓動が早まる。この瞬間に、“映画が匂い立つ”のだ。これが映画の魅惑、90年がたっても色あせぬ映画の魔術なのである。
“グランド・ホテル形式”の面白さ
そしてこの魔術はこの“グランド・ホテル形式”によってはじめて可能になったものということも出来る。この形式の利点は主人公が定かではないために、物語がどちらに転んで行くかが予想しにくいという点にある。ひとり(あるいはふたり)の主人公がずっと物語の中心にいるような映画では、何か斬新なアイデアがないと結末までの展開というのはだいたい想像がついてしまうものだが、主人公が多ければ多いほど展開の可能性が広がり、予想がつきにくくなるわけだ。この作品はその仕組みを見事に利用して名作として刻まれ、“グランド・ホテル形式”という名前によってその名を残した。そして、だからこそ今も“グランド・ホテル形式”の作品は作られ続け、魅力はあせない。
そしてさらに言えば、この作品の展開は今から見るといっそう意外と言っていいものである。だから「今見ても面白い」作品であると同時に「今だからこそ見て面白い」作品でもあると思う。名作というとどうも退屈な印象があるのは、文学でも音楽でも映画でも同じだが、この作品はいまこそ新鮮な面白みがある作品だと思える。
もちろん、グレタ・ガルボとジョーン・クロフォードの2人の大スターの魅力も忘れてはいけない。スタートしての格はグレタ・ガルボのほうが上だが、この作品をみるとジョーン・クロフォードにはガルボとは違ういわゆる大衆的な魅力があると感じる。手の届かないスターではなく、手が届きそうなスター、それがジョーン・クロフォードなのではないか。30年代を通して年に数十万通のファンレターが届いていたという事実からも彼女のそんな魅力が窺い知れる。
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この映画が含まれているまとめ
“グランド・ホテル形式”の名作たち
『パルプ・フィクション』
『ラブ・アクチュアリー』
『エドワード・ヤンの恋愛時代』
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