処女作『アメリカの影』でジョン・カサヴェテスが生み出した快感

処女作『アメリカの影』でジョン・カサヴェテスが生み出した快感

アメリカ・インディペンデント映画の父ジョン・カサヴェテスの処女作。マンハッタンを舞台に即興演出で若者の日常を描き、アメリカ社会とアメリカ映画の暗部をえぐる。

まだまだジョン・カサヴェテスらしさは弱めだが、インディペンデント映画らしいエッジの効いた映画ではある。

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映画『アメリカの影』の概要

ニューヨーク、マンハッタンで暮らすベニーは今日も悪友2人とガールハントに出かけた。ベニーの妹レリアは友人のデヴィッドとともに作家たちのパーティに出かける。ベニーが訪ねたスタジオでは歌手をしている兄のヒューが半端仕事に不満を述べている。

黒人の血を引いた三兄弟の日常のドラマ。おそらくこの映画はなるべく予備知識なく見たほうが面白いと思うので多くは書きませんが、後にアメリカ・インディペンデント映画の「父」と呼ばれることになるジョン・カサヴェテスの処女作、その独特な映画の作り方と映像センスは時代を考えると脅威にすら感じます。

Shadows
1961年,アメリカ,81分
監督:ジョン・カサヴェテス
撮影:エリック・マッケンドリー
音楽:チャールズ・ミンガス
出演:レリア・ゴルドニー、ヒュー・ハード、ベン・カルーザス

即興の違和感と緊迫感が生むカサヴェテス映画の快感

ある種のぎこちなさと緊迫感、即興演出であることを知らなければどうにも違和感を感じるであろうそのスタイルには苛立ちさえ覚える。しかしこの苛立ちが納得に代わる、その瞬間がカサヴェテスの映画の快感だと私は思います。常にその瞬間を待ちわび、その待ちわびる焦燥感を味わう前半。

その前半で気になるのは、ヒューと後2人が会話しているシーンの異常なほどのクロースアップ。こんな画面見たことない。3人の男のアップが画面を埋め尽くし、ひたすら言葉をまくし立てる光景は異様であり、さらに焦燥感をかきたてる。

その瞬間がやってきたのは、私の場合(人によって違うような気がする)はトニーがヒューに部屋を追い出されるところ。ここまできてようやく、この映画の落ち着きどころが理解でき、今までのことにも納得がいき、これからの展開を安心してみる気構えが出来たのです。この場合は「人種」ということが問題になっているわけですが、そもそもヒューの黒さに比べて後の2人が比較的白いのでなかなか兄弟ということに気づかずにいたのがここで納得がいったということもあるし、それ以外の彼らの行動や態度も「人種」というものに裏打ちされていたものなのだと納得がいく。

このカサヴェテスの焦燥感というのは、アメリカ映画の一つの特徴(あるいは欠点)を突いている。それは一つの映画を一つのテーマに還元してしまうということ。だから我々は映画を見るときにその映画のテーマを見つけずにいられない。それなのにカサヴェテスの映画はなかなかそのテーマが見えてこない。始まって数十分の間は映画が何に向かって進んでいるのかがわからない。それはもちろんこの映画がシナリオのない即興演出であったからであり、それがシステムにがんじがらめになったハリウッド映画の盲点でもあったということ。だからこの焦燥感こそがカサヴェテスがインディペンデント映画の「父」である理由であり、我々がカサヴェテスを見る(一つの)理由でもある。

『アメリカの影』が見られるVODは

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