SF映画『メッセージ』が明らかにする、世界を危機から救うのは組織ではなく「人間」という事実。

SF映画『メッセージ』が明らかにする、世界を危機から救うのは組織ではなく「人間」という事実。

『ブレードランナー2049』のドゥニ・ビルヌーブ監督が、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を映画化したSFドラマ。

ある日、世界12ヶ所に巨大な未知の飛行物体が突如現れる。言語学者のルイーズはその物体に乗る未知の生命体とコミュニケーションを取るよう依頼され、彼らとのコンタクトを試みるが…

映画『メッセージ』の概要

言語学者のルイーズは最愛の娘を若くして亡くす。そのルイーズが大学で授業をしていると、正体不明の物体が世界の12ヶ所に到来したというニュースが流れる。何者なのか、目的は何なのかわからないまま48時間が経過した頃、米軍の大佐がルーズのもとを訪れ、“エイリアン”のものと思われる音声を聞かせてルーズに解読の協力を求める。

エイリアンと直接コンタクトすることを条件に養成を受け入れたルイーズは、コンタクトの最前線に赴き、物理学者のイアンとチームを組んで、エイリアンとのコンタクトを試みる。

アカデミー賞8部門ノミネート(音響編集賞受賞)のSF大作だが、スペクタクルではなく地味なヒューマンドラマで「人間とは」という問いを“未知との遭遇”を通して描いた感動作。

監督:ドゥニ・ビルヌーブ
原作:テッド・チャン
脚本:エリック・ハイセラー
撮影:ブラッドフォード・ヤング
音楽:ヨハン・ヨハンソン
出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー

未知と遭遇した人類は攻撃を選ぶのか

謎の巨大飛行隊が世界12ヶ所に同時にやってくるとなると、エイリアンによる侵略がイメージされますが、このエイリアンはまったく何もしてきません。でも、コンタクトを取った米軍はメッセージのやり取りをすることができていて、その解読を言語学者の主人公に頼むという展開です。

ルイーズが訪れる宇宙船は内部で重力がコントロールされていて、地球とは桁違いに高度な科学を持っていることが伺えます。エイリアンとのコンタクトは地球人用に調整された部屋で透明な壁を挟んで行われます。

アメリカではルイーズがコミュニケーションを担当しますが、世界各地で同時に行われているのがこの物語の肝。アメリカの基地にも全世界と同時通信をしている部屋があって、世界各地とコミュニケーションが取られています。しかし、1ヶ月が過ぎてもエイリアンとのコミュニケーションはうまく行かず、じれてきて武力に訴えることを考え始める国も出てくるのです。

ここにこの物語が投げかけるテーマがあります。「人は未知の存在と遭遇したときにどのような態度を取るのか」です。ルイーズは言語学者だけあって未知の存在とコミュニケーションをとることの難しさを知っていて、粘り強く交渉することを主張しますが、相手の意図がわからないことに恐怖を抱く人々は相手が攻撃してくる前に攻撃するべきだと主張するのです。

わからないのに攻撃するとは何たることだと思いますが、今の世界を見ていると国を始めとしたあらゆる集団は恐怖から他の集団を攻撃することは珍しくなく、この映画のような展開もさもありなんと感じてしまいます。

もちろん、そうなってはだめなので、ルイーズが世界を相手にひとり奮闘するというのがこの映画です。

SFである前にヒューマンドラマ

ルイーズが粘り強くコミュニケーションを取ろうとする理由は言語学者だからだけではありません。もう一つのこの映画の核であるルイーズの娘の記憶もここに関わってきます。

ルイーズはシングルマザーとして娘を育てるが娘はおそらく10代で若くして亡くなっています。その記憶は強烈で、たびたびフラッシュバックが起こるほど。なぜフラッシュバックが起き、ルイーズはそれにさいなまれるのか、それがこの物語を解く大きな鍵になります。

ネタバレのためここでは説明しませんが、ルイーズがこの意味を理解することがこの出来事の最終的な解決のために必要になるのです。

そして、映画として面白いのは、その意味を観客はルイーズに先んじて理解できるようになっていることです。観客が「なるほど!」と先に膝を打ち、ルイーズがそれに気づくのを見守ることで、結末でカタルシスが得られる仕掛けになっているのです。

きっちりとしたSFではありますが、それを無視してヒューマンドラマとしてみても十分に楽しめる、そんな作品です。むしろヒューマンドラマの舞台装置としてSFが使われていると考えたほうがいいのではないでしょうか。

“未知との遭遇”とヒューマニティ

“未知との遭遇”はSFが描き続けてきたテーマでもあります。いわゆるスペクタクルのエイリアンもの (『エイリアン』シリーズや『インディペンデンス・デイ』など) は未知のものを「敵」として描きますが、そうではないSFがも多数存在します。それこそ『未知との遭遇』がそうですし、『コンタクト』などもその部類に入ります。

それらの作品が描こうとしているのは実は「宇宙人」のことではなく、現実に存在する「未知のもの=エイリアン」であることが往々にしてあります。

この映画でも、ルイーズの娘が重要な存在ですが、考えようによっては自分の子供も生まれた瞬間は「未知のもの」なわけです。それを無条件で愛することができるのはなぜか、宇宙から来訪した未知のものとの違いはどこにあるのか、それを深く考えていくと、「人間らしさ=ヒューマニティ」とは何かという疑問に突き当たります。未知のものどう接するかはヒューマニティに関わる問題なのです。

あるいは「未来」も未知のものと考えることができます。人は期待と恐怖がない混ぜになった気持ちで常に未来を見つめています。つまり、人は常に「未知のもの」と直面しながら生きているのです。

この映画を始めとする“未知との遭遇映画”は宇宙人という誰にとっても未知のものを出すことで、自分たちが日常的に遭遇する未知のものとの接し方について改めて考えさせる狙いを持っているのではないでしょうか。

未知のものに対して恐怖を抱くのは仕方がないにしても、その後どう接するかで人生は豊かにもなるし貧しくもなる。そんな壮大なことを考えさせられる作品でした。

『メッセージ』を見られるVODは

映画『メッセージ』を見られるVODは以下のとおりです(2020年3月現在)。

2,189円/月
31日間無料
メッセージ定額見放題
500円/月
30日間無料
メッセージレンタル
2,659円/月
30日間無料
メッセージレンタル
550円/月
31日間無料
メッセージレンタル