ソダーバーグが『コンテイジョン』で描くリアルなパンデミックは“今”への警鐘か

ソダーバーグが『コンテイジョン』で描くリアルなパンデミックは“今”への警鐘か

ソダーバーグが新型ウイルスが発生しパンデミックに陥ったアメリカを描いたパニック映画。「恐怖はウイルスより早く感染する」という売り文句通り、恐怖に襲われた人間を描く。

ソダーバーグ映画らしく、グウィネス・パルトロー、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウ、マット・デイモンなど豪華キャスト。

映画『コンテイジョン』の概要

香港への出張から帰ったベス・エフモフは風邪のような症状から急変し急死してしまう。そして息子にもまもなく同じ症状が出ると同時に世界中で同様の症状の症例が報告される。WHOやアトランタの疾病予防管理センターが感染ルートとワクチンの開発に奔走する中、いち早く伝染病に警鐘を鳴らしたフリージャーナリストのアランはある薬草を特効薬として自らを実験台にした映像を発表するが…

ソダーバーグがオールスターキャストで取り上げたパンデミック・パニック映画。ドキュメンタリータッチでリアルな味わい。

2011年,アメリカ,106分
監督: スティーヴン・ソダーバーグ
脚本: スコット・Z・バーンズ
撮影: ピーター・アンドリュース
音楽: クリフ・マルティネス
出演: グウィネス・パルトロー、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウ、マット・デイモン、マリオン・コティヤール、ローレンス・フィッシュバーン

あまりにリアルなパンデミック

この映画には主人公がいない。パニック映画には必ず主人公がいて、その主人公がそのパニックを納めるなり、逃れるなりなんなりるのがプロットになるのだが、この映画にはその主人公がいない。主人公らしき人としては最初に感染者として登場するベスの夫やワクチン開発に身をささげる研究者、現地調査に赴くWHOの調査員、フリージャーナリストなどがいるが、そのうちの誰もひとつのプロットで映画を引っ張る主人公とはなりえない。

その主人公不在という事態によって何が起きるのかといえば、パニック映画らしからぬアンチクライマクスであり、いわゆるエンターテインメントとは異なるリアリスティックな展開である。

そのため、ひとつのクライマックスに向かって盛り上がっていくという高揚感はなく、むしろ冷静に事態を見つめる立場に観客は置かれる。そしてその中でまず感じるのはおそらく「実際にパンデミックが起きたらこうなるんだろうな」ということだ。この映画の舞台はアメリカであり、日本で起きることとは異なってくるだろうとは思うが基本的な反応は同じだろうし、一人ですべてを解決してくれるヒーローなどは現れず、死ぬはずがない人も死ねば、死ぬべき人に見える人が死なないこともある。

パンデミックと利己心

そして、その中からさらに見えてくるのは、すべての人の人間くささだ。ここに聖人君子はいないし、かといって完全に利己的な人間もいない。基本的には人間は利己的に振舞い、それがパニックを生むわけだが、しかし同時に人のために何かをしたいという思いも持ち、そのために時には身を犠牲にするし、あるいは渋々ながら秩序に従う。

そんな人間くさい人たちの小さな物語の集積がこの映画なのだ。ただ、その中でも特に気になる存在というのはいて、それがジュード・ロウ演じるフリーランスの記者アラン・クラムウィディだ。彼は体制を攻撃し、市民の味方のように振舞うが、実際には自分の私利私欲を中心に動いている。彼の流す情報がパニックを助長し、さらなる混乱を生む。それは現代における「情報」の重要性を示唆しているわけだが、それは彼のような人物を生んでしまう現代という時代への疑問でもあるかもしれない。体制は悪で市民は善という単純な構造ではなく、もっと複雑に人間の欲望や正義感やいろいろなものが絡み合う複雑な構造、個人に焦点が当てられることで明らかになることもあるが、同時に見えにくくなってしまうものもある。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

リアリティはもやもやを残す

さすがはソダーバーグで物語的には最後にすべてが収まるところに収まるという感じだが、内容の細部をみるとどこも視界が悪いというかモヤモヤした感じが残る。それがリアリティであり、アンチクライマックスということなのだが、消化不良という感覚も残る。そしてこれが「リアル」であるということは、パンデミックのリスクが非常に現実的なものであるという現実を突きつけられることでもあり、そこにもどうにもいやな感じを覚える。

それはつまり、エンターテインメントのようでありながら現実を想起させもするということだが、果たしてこれがいいのか悪いのか…この題材ならもっとエンターテインメントに徹してくれたほうが心から楽しめたような気もするが…

『コンテイジョン』が見られるVODは

映画『コンテイジョン』が見られるVODは以下のとおりです(2020年3月現在)。

2,189円/月
31日間無料
コンテイジョン定額見放題
500円/月
30日間無料
550円/月
31日間無料
990円/月
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800円/月~
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