目が見えないから見える「愛」を描いた『ブラインド・マッサージ』から学べること

目が見えないから見える「愛」を描いた『ブラインド・マッサージ』から学べること

映画『ブラインド・マッサージ』の概要

シャオマーは子供の頃に交通事故で視力を失い、希望をいだいて治療を続けるが治る見込みがないと知り自殺未遂を図る。しかし、そこから回復すると盲学校に通って技術を身に着け、南京の盲人マッサージ院に就職する。その店にはシャー院長を始め多くの盲人が働き、寮生活を送っていた。

そこに、シャー院長を頼って元同級生のワンが恋人のコンを伴って入店、シャオマーはコンに横恋慕してしまう。それを見かねた同僚がシャオマーを行きつけの風俗店に誘い、シャオマーはそこでマンに出会う…

視覚障害者たちの恋模様や人間関係を、ロウ・イエ監督がじっくりと描き、健常者には見えない世界を浮かび上がらせる。

2014年/中国=フランス/114分
監督:ロウ・イエ
原作:ビー・フエイユイ
脚本:マー・インリー
撮影:ツォン・ジエン
出演:ホアン・シュアン、チン・ハオ、グオ・シャオトン、メイ・ティン、ホアン・ルー、チャン・レイ

視覚障害者だけが見える「愛」

この映画の主人公は一応、シャオマーとシャー院長になるのだろうが、全体を見るとマッサージ院で働く視覚障害者たちみんなが主人公の集団劇にも見える。

映画を見るのは健常者なので、視覚障害者のさまざまな視点が提供されることで、健常者たちにとっては未知の世界が構築されていく感覚を覚えるのではないだろうか。

この映画で一番印象的なのは、視覚障害者は目に見えないものは健常者よりよく見えるという視点。わかりやすいのは停電で暗闇になったとき、視覚障害者のほうが物がよく見えることだが、ここで言っているのはそういう物理的なものだけでなく、そもそも目に見えないものについても言っている。

そして、ロウ・イエのこれまでの物語を考えると、ここで最も描きたかった見えないものは「愛」だろうと思う。

この映画は視覚障害者の目を通した愛の姿を描くことで、健常者には見えていない愛の形を見せようとしているのではないか。

そう思う理由がいくつかある。

ひとつは、視覚障害者であることを理由に見合いを断られ続けているシャー院長が、健常者に「美しい」と形容されるドゥ・ホンを好きになるエピソード。シャー院長は視覚障害者であるにも関わらず、健常者のみかたで世界を見ようとしている。「美を理解したい」と言い訳をするが、健常者の世界に受け入れられない自分を卑下し、受け入れてもらえるために「美人の嫁」を手に入れたいのではないだろうか。シャー院長は物理的に盲目であるだけでなく、視覚障害者だけが見えているはずの世界においても盲目なのだ。

もう一つは、徐々に視力を失い最後には全盲になることがわかっている女性スタッフ(役名は忘れてしまいまsた)が、目が見える内に愛を得たいと全盲の男性スタッフにアタックする。しかし、男性の方は「僕は君にはふさわしくない」といい、最初は断る。女性の方は目が見えている今のほうが正しい決断ができるという健常者的な考えで行動しているが、彼女が全盲になっても二人はうまくいくのか疑問に思える。男性の方はそれを見抜いているのかも知れない。映画の中では極が描かれることはないが、きっとそうだろうという気がしてならない。

そして、主人公という位置づけのシャオマー。彼はコンにずっと思いを寄せる。そのきっかけが匂いであるところも気になるが、コンはそれに応じない。愛は必ずしもふたつのベクトルが一致するとは限らないし、ロウ・イエがこれまで描いてきたものを考えると愛の質は一つではなく、一人の人間しか愛せないわけではないと考えているだろうから、コンの選択はワンから揺るがないという結論に違和感は感じない。

そのシャオマーと風俗嬢のマンの関係がこの物語の最後のピースになるだろう。ネタバレになるので詳しく書かないが、シャオマーならではの境遇がひとつの決断をさせる。

見えない世界から学べること

この最後まで見ると、見えないものが見えているという視覚障害者の判断が必ずしもあっているわけではないというか、彼らには彼らなりの価値観があり、それは目が見える人とは違っているというだけで、どちらが正しいとは言えないという結論になるように思う。

そんなこと言ってしまっては元も子もないのだけれど、そういうことなのだ。誰しも自分の内なる声に耳を傾け、判断するだけだ。

映画の途中に、視覚障害者にとって目が見える人は健常者にとっての精霊のようなものだという語りがあって、なんだか違和感があったけれど、それは崇め奉るということではなく自分にできないことができる一段上の存在という認識なのだろう。しかしそれは実は上下ではなく、違いに過ぎない。

それは、この映画が、見えないものが見える視覚障害者がすごいということを示しているようで実は違うだけだということを示しているのと同じことだ。

そう考えると、この映画を見ることは違う世界を旅して帰ってくるようなものなのかも知れない。そしてその体験を通して自分を省みることになるのがロウ・イエのすごさなのだと思う。

『ブラインド・マッサージ』が見られるVOD

映画『二重生活』が見られるVODは以下の通りです(2020年6月現在)。

500円/月
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550円/月
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2,659円/月
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『ブラインド・マッサージ』の次に見るべき映画

ロウ・イエ監督の作品群をぜひ。

ロウ・イエ監督作品リスト