湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』は少年と世界の関係を描き感動を呼ぶファンタジー
湯浅政明監督が2017年に手掛けた長編第3作。人魚伝説が残る港町で祖父、父と暮らす中学3年生のカイが人魚の少女ルーと出会ったことで巻き起こる騒動を描いた作品です。
少し入り込みにくいところはありましたが、最後は感動もできる青春ファンタジーです。斉藤和義さんの「歌うたいのバラッド」もいい味出してます。
映画『夜明け告げるルーのうた』の概要
中学3年生の足元カイは港町・日無町で祖父、父と舟屋のある舟宿で暮らしている。母と別れて東京から引っ越してきた事情もあってか学校の友達と馴染めなかったが、ネットで発表している自作の音楽がカイのものだとクラスメートの遊歩と国夫に感づかれ、バンドに強引に誘われる。
最初は拒否するカイだったが、練習を人魚が住むといわれる人魚島でやるといわれて参加することに。カイは祖父から海に出ることを禁じられていたが、人魚に興味を持っていた。
そこで練習していると彼らの音楽にわせて不思議な歌声が聞こえ、家に戻ったカイのもとに音楽が大好きな人魚の少女ルーが現れる。カイたちはルーをこっそりバンドに参加させお祭りで演奏を披露するが、ルーの存在がバレてしまう。
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子、湯浅政明
キャラクターデザイン原案:むねようこ
作画監督:伊東伸高
撮影監督:バテイスト・ペロン
音楽:村松崇継
声の出演:谷花江、下田翔大、寿美菜子、斉藤壮馬
ファンタジーに入るのに少し時間がかかる
この物語の設定はごく普通の港町で出てくる人たちもごく普通の人々ですが、映画に入り込むには人魚の存在などのファンタジーを受けれる必要があります。ところどころ「その設定すんなり受け入れすぎだろ」と突っ込みたくなるところが出てくるので、そこでひっかかってしまうと今ひとつ入り込めなくなってしまうかもしれません。
そこはもう少し説得力があると言うか、ファンタジーをファンタジーとして受け入れる準備を見る側にさせるエピソードなどが欲しかったと感じました。
でもまあ、映画が進んでいけばそういう設定なんだなと納得して、物語に集中していくことはできます。
世界との関係を描いた映画
ファンタジーを受け入れた上で、この映画を見て思うのは、この映画は主人公カイと世界との関係を描いた映画だということです。
映画の始まりでカイは家族やクラスメートを含め現実の世界とほとんど関わりを持たずに生きています。ネットで音楽を発表するそこでのつながりだけのような(本当に最初の一瞬なので憶測ですが)。
そのカイが興味を持つのが人魚、祖父には「あいつらは人を食う」といわれ、海に近づくなといわれている人魚、その人魚にカイは興味を持ちます。それはなぜなのか、これも憶測ですが、カイは自分が世界から阻害されていると感じていて(本当は自分から避けているんですが)同じよう人間界から阻害されている人魚にある種の共感を感じていたのではないでしょうか。
そのカイがクラスメートの遊歩と国夫、そしてルーと出会うことで現実の世界と関わっていくというのがこの映画の物語なのです。
ルーが開くカイの世界
ルーはどんどん世界と関わりたい(みんなと仲良しになりたい)という欲求を持っていて、カイもそれに引きづられて現実と関わるようになり、どんどん朗らかになっていきます。
このあたりのカイの動機づけはちょっと説得力がないようにも感じますが、カイはルーに恋をしてしまったと解釈すれば納得できます。この恋は中学生にしては子供っぽい恋ですが、恋であることは間違いないでしょう。
ルーによって世界に導かれたカイですが、現実の方はルーの純粋さを裏切ります。「人を食う」という伝説を信じる人もいれば、ルーを利用してまちおこしをしようという人もいて、ルーは利用されていることになります。
カイはその世界に反発したのか、嫉妬をしたのか、ふたたび世界と関わるのをやめてしまいます。受験勉強という隠れ蓑をかぶって自分の世界に閉じこもるのです。
家族と成長と自立
もちろん最後にはカイも再び心を開き感動の大団円を迎えます。内容については書かないとして、なぜこの映画が感動的なのかを少し考えてみたいと思います。
カイが心を閉ざす背景には、親との関係があります。母と離れて父とともに田舎町に引っ越してきたカイは母からの手紙を開こうともしません。カイの行動の背景には家族との関係があるのです。
それがルーをきっかけに外の世界と触れて、さまざまな家族のあり方を見ることで自分と家族の関係を見直すに至ります。その中でカイが至った結論はおそらく「人生に不満だらけなのは、自分が実は家族に頼りすぎていたからだ」ということではないかと思うのです。
つまり、カイは自立への一歩を歩み始めた。カイは途中で遊歩を自分のことしか考えないと非難しながら実は自分こそ自分のことしか考えていなかったことに気づきます。それは家族に対しても当てはまっていて、自分勝手にさせてもらえないことを勝手に不満に思っていたことに気づいたのです。
この物語は中学3年生という微妙な年齢の少年の淡い恋と成長を描いたもので、だから多くの人が共感できるものになっている、そう思います。
完成度から言うとそれほど高いわけではありませんが、いい映画だなと思いました。
『夜明け告げるルーのうた』が見られるVODは
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