黒澤明の『虎の尾を踏む男達』でエノケンの底力を知る

黒澤明の『虎の尾を踏む男達』でエノケンの底力を知る

黒澤明の戦後第1作として撮られながら検閲に引っかかり7年間公開されなかったという喜劇。歌舞伎の演目「勧進帳」を黒澤明が大胆にアレンジし、エノケンの笑いでダイナミックなコメディにした。

映画『虎の尾を踏む男達』の概要

平家を滅ぼすのに功を上げた義経だったが、梶原景時の箴言により兄頼朝から終われる身となってしまった。義経は奥州の藤原氏の下に逃げ延びるため、武蔵坊弁慶らとともに山伏に変装して旅をしていた。その途中、安宅の関所にいたる部分がドラマとして描かれる。

「勧進帳」を黒澤明が大胆にアレンジして映画化した作品。エノケンの軽妙な役回りが効いて、見事な作品に仕上がっている。

1945年,日本,59分
監督:黒澤明
脚本:黒澤明
撮影:伊藤武夫
音楽:服部正
出演:大河内伝次郎、榎本健一、藤田進、森雅之、志村喬

喜劇王エノケンの魅力

終戦直後に完成したが、まだ残っていた内務省の検閲に引っかかってお蔵入りとなり、1952年まで公開が先送りされたといういわくつきの作品でもある。

なんといってもエノケンだと思います。もちろん、戦争直後にこれだけのクオリティのものを作れる黒澤明はすごいけれど、エノケンがいなければこの映画は退屈なものになってしまったことでしょう。コミカルな顔にコミカルな動き、まさに軽妙としか言いようのない日本の喜劇王。黒澤明はエノケンの喜劇に何本か助監督としてついたことがあり(監督は山本嘉次郎)、それがエノケンの力を黒澤に認識させ、さらにはコメディの作り方を学ぶ場にもなったのだろう。

このエノケンのキャラクターはたぶん原作にはなく、黒澤の創作だと思う。なんとも暗い戦後日本に必要なのはコメディだと感じた黒澤が、大胆にも「勧進帳」にコメディを導入した。それがこの映画であり、その大胆な発想こそが黒澤らしさとも言える。

しかし、その大胆さが裏目に出て、この映画は日本の伝統芸能を愚弄しているということで内務省によって排除されたという。これはコメディというのがいかに低く見られてきたのかということのひとつの証拠であり、エノケンというそこらの役者ではまったくかなわない名優でも喜劇役者ということで低く見られていた時代なのだろう。

黒澤はコメディといえるものはあまり撮っていないが、笑いという要素にはなかなかうるさいようで、決して笑いをおろそかにはしようとしない。このあたりも黒澤映画が娯楽映画と見られるひとつの要因だが、本当はそのようにコメディまでも取り込んで映画を作れる偉大な才能(コメディ映画には独特の才能が要るはずだ)の証明であるはずだ。

『虎の尾を踏む男達』が見られるVODは

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