現実と想像の境をただようロウ・イエ監督『ふたりの人魚』
現代中国で鬼才と称される映画監督ロウ・イエが2000年に撮った恋愛映画が『ふたりの人魚』。今は大女優となったジョウ・シュンが二役を演じ、現実と想像が混じり合うような幻想的な恋愛物語に仕上がった。
映画『ふたりの人魚』の概要
ビデオ撮影を生業とする男が撮影を頼まれたバーで出会った女と恋をする。男は女に入れ込み、女が出かけるとただぼっと窓の下を眺めてすごしていた。男はあるとき、女がいった「マーダー」という男のことを想像しはじめる。
不思議な物語世界をいわゆるドキュメンタリータッチの映像で描いた新しい中国映画。TOKYOFILMeXでグランプリを受賞。
蘇州河
Suzhou River
2000年,中国=ドイツ=日本,83分
監督:ロウ・イエ
脚本:ロウ・イエ
撮影:ユー・ワン
音楽:ビョルグ・レンバーグ
出演:ジョウ・シュン、ジア・ホンシュン
それは本当に現実か
物語はすごく好きなタイプのものです。ふたつの物語が絡み合って、うまい具合に新しい物語を紡いでいく。本筋の主人公の男の想像であったはずのマーダーの物語がその現実へと降りてきて、どこまでが現実でどこからが想像なのか、その境界が曖昧になっていくところが非常にいい。
そして、考えれば考えるほどわからなくなる。
最初にマーダーの話を出したのは男の恋人のメイメイで、男はそこから想像を膨らませてマーダーとメイメイにそっくりなムーダンを作り上げたのです。でもある時そのマーダーが男の前に現れてメイメイとムーダンが同一人物ではないかと告げます。
そうなると、時制も混乱してきます。メイメイがマーダーの事を話した時点はいつなのか、ときどき数日姿を消すメイメイは何をしているのか、などなどどんどんわからなくなっていくのです。
それで思ったのは、現実なんてそんなものかもしれないということです。あなたにとっての現実、私にとっての現実、そのどちらもそれぞれの記憶と現在の知覚のみに基づいたもので、記憶とは概して不確かなものです。
ならば、その記憶に基づいた現実の確かさはどれくらいのものなのか。そんな疑問が頭をもたげます。
そんなことを書いているとまたわけがわからなくなってきますが、この映画はわからない物語を紡ぐことで、私たちの現実と想像の境界をも曖昧にしているのかもしれません。
現実と記憶と想像の物語と。その境界はそんなに確かなものなのでしょうか。
現実が現実と思えない感覚
そんな事を考えながら映画を振り返ってみると、そこで味わったのは現実が現実と思えない感覚に近いのではないかと思い至りました。
誰しも一度くらいはこの現実は本当に現実なのだろうかと思ったことはないでしょうか?『マトリックス』の世界ではないですが、実は現実と思っているものが夢だとか、あるいは宇宙人の壮大な実験なのではないかとか、そんな荒唐無稽なようで、でもなぜかリアリティも感じてしまう想像を膨らませたことが。
この映画はそんな想像が現実に入り込んでくることで現実の現実感が失われていく状況を描いた映画なのではないか、そんな気がしました。
映画には別世界に入り込ませてくれるものもありますが、この映画は別世界が入ってくるようなそんな映画なのです。
ロウ・イエ監督は他の作品もとらえどころがない感じがあり、それは初期からすでにあったのだと再確認しました。
『ふたりの人魚』が見られるVOD
映画『ふたりの人魚』が見られるVODは以下の通りです(2020年5月現在)。
31日間無料
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ロウ・イエ監督の作品群をぜひ。
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