生活保護費を搾取する「囲い屋」を描いた『蜃気楼の舟』のわからなさが考えさせるもの
- 2020.07.14
- 映画レビュー
ホームレスの老人を田舎のバラックに囲い込み、生活保護費を搾取するいわゆる「囲い屋」で働く男。悲惨な環境に置かれている老人たちに同情することもなく、淡々と仕事をしていた。しかしあるとき、幼い頃に自分をおいて出ていった父親を発見、しかし父親は男のことを認識しようとしない。男は父とコミュニケーションを取ろうとするが…
カラーの現実とモノクロームの幻想で男の心象風景を描きながら、心の底へと迫っていく。
2015年/日本/99分
監督・脚本:竹馬靖具
撮影:佐々木靖之
音楽:中西俊博
出演:小水たいが、田中泯、足立智充
解釈しがたさの意味は
「囲い屋」というセンセーショナルな舞台装置を用意しながら、それを問題化することなく、単なる舞台として物語が展開していく。意味があるとすれば、ホームレスになった父親との出会いの場であることと、謎の同僚を通して社会との関わりが示唆されることくらいか。
映画全体としては何が言いたいかよくわからない。それは、登場人物たちの感情が不在でドラマが展開されないからだ。物語の中でいろいろなことが起きるのだが、それにどんな意味があり、主人公の感情に同作用したのかわからない。大きなトピックになりそうな男と隣に暮らす親子との出会いとその後の出来事の意味も判然としない。
基本的には説明を拒否するのがこの映画のスタイルなのだと思う。観た人が自由に感じて解釈してくれと。その解釈のための装置として用意されたのがカラーとモノクロの2種類の映像だ。序盤では挿入されるモノクロの映像の意味がわからないが、映画が進んでくるに連れ、これは主人公の記憶あるいは幻想/想像/夢であるだろうことがわかってくる。そして、父親と出会い交流していくと、このカラーとモノクロが逆転し、現実と幻想のが判然としなくなっていく。
そして、現実と幻想が渾然一体にあることで、そもそもこの老人は本当に父親なのか、男は父親に何を求めているのか、幻想の中に存在していた父親の意味は何かなどなど様々な謎が浮かび上がっていく。
ただ、それでも一体何が言いたいのかはわからない。でも、もしかしたらそれが狙いなのかも知れない。「これは一体何なんだろう」と考えさせること、それが真の狙いで、そのための引っ掛かりをたくさん作っている。囲い屋というトピックもそうだし、謎の同僚も、隣の親子もそうだと考えれば、その引っ掛かりから考えることへと導かれる、そんな作品と考えることもできるかもしれない。
そうやって考えた結果は本当に人それぞれだろう。ただ、おそらくテーマは「生き方」に収斂していくのではないか。
『蜃気楼の舟』が見られるVOD
映画『蜃気楼の舟』が見られるVODは以下のとおりです(2020年7月現在)。
UPLINK CLOUDの見放題で見ることができます。
『蜃気楼の舟』の次に見るべき映画
竹馬靖具監督デビュー作
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