『スプリング・フィーバー』の超難解な恋愛模様を読み解くと、そこには愛の不在があった。
現代中国の奇才ロウ・イエ監督が、製作禁止期間中にも関わらずゲリラ的に撮影した恋愛ドラマ。台詞が少なく非常に難解ながら一人ひとりの真理を丹念に描いて強烈な印象を残す。カンヌ映画祭で脚本賞も受賞した。
この作品も中国では上映禁止になり、ロウ・イエの奇才ぶりが更に脚光を浴びることとなった。
映画『スプリング・フィーバー』の概要
リン・シュエは夫のワン・ピンが浮気をしているのではないかと疑い、ルオに調査を依頼する。ルオはワンを尾行し、青年ジャン・チョンと愛を交わす現場を目撃して、リンに報告する。浮気相手が男性であったことに衝撃を受けたリンはジャンの職場に乗り込みワンと別れるよう迫った。
ワンと疎遠になったジャンにクラブで声をかけたのは尾行をしていたルオ。ルオにはリー・ジンという恋人がいるが、ジャンとも関係を持つようになる。そんな中ワン・ピンが自殺を図る…
ロウ・イエ監督が『天安門、恋人たち』の制作により中国電影局から受けた5年間の製作禁止を破ってゲリラ的に撮影した作品。カンヌ映画祭で脚本賞を受賞したが、中国では上映禁止となった。
春風沈酔的晩上
2009年/中国/115分
監督:ロウ・イエ
脚本:メイ・フォン
音楽:ペイマン・ヤザニアン
出演:チン・ハオ、チェン・スーチョン、タン・ジュオ、ウー・ウェイ
超難解な恋愛ドラマを読み解く
映画を見ても5人の関係がよくわからなかったくらいなので、映画を見ていない人は読んでもなんのことかわからないと思うので、まず映画を見ることをおすすめします。映画を見た上で、難解で訳がわからないと思ったら読みに来てください。
さて、まずこの映画は画面が暗くて誰が誰なのかわかりにくく、台詞も少ないので、それぞれのキャラクターや関係性がつかめない状態が半ばまで続きます。本当に途中までは「いったい何なんだこの映画は」と思うばかりなのです。
それでもじっくり見ていると中盤辺りから、ジャンとルオとリー・ジンの3人の感情が映画の中心にある事がわかってきて、それを感じ取ることができれば映画の中に入っていける感じを掴むことができます。
そのうえで、この映画が何かというと、恋愛映画であることは間違いありません。でも普通の恋愛映画ではなく、非常に閉塞感のある恋愛映画なのです。
それはなぜか、色々考えた末に達した結論は、ここには一つの愛しか存在していないからということです。その愛はワン・ピンとジャンの間に存在しています(した)。
他の3人は愛を手にすることができず、ワンとジャンも結局別れてしまうので愛を失ってしまい、結局誰も愛を手にすることができない状態で物語が進んでいきます。
それでも彼らは愛を奪い合います。それが最初に現れるのはリンがワンを手放そうとせずにじゃんと別れさせる場面です。リンがもはやワンを愛していないことは明らかです(以前は愛していたのかはわかりません)。それでもリンがワンを手放さないのは、ワンが掴んでいる愛を自分のものにしたいからにほかなりません。
まあ解釈に過ぎないので断言はできないんですが、私はそう解釈しています。
愛を手にできない恋人たち
ルオはどうなのか。ルオにはリー・ジンという恋人が居て、二人はしっかり繋がり合っているように見えます。でも、リー・ジンの気持ちは支店長の方にあるように見えます。支店長は5人の物語と関係ないのにあえて登場しますし、この支店長の行動によってリー・ジンの気持ちは大きく揺れ動くことからそれは推察できます。
つまりルオは恋人は居ても愛は手にできていないのです。そのルオはワンとジャンが愛し合う場面を目撃しています。そこに真の愛があることを感じているのです。だから、ワンと別れたジャンと関係を持てば、その愛が自分に向けられるのではないかと考えるのです。
ではジャンはどうなのか、ジャンの愛はずっとワンのもとにあります。なので、ワンを失ったジャンの心にあるのは空白だけです。ジャンはただそれを埋めようとしているだけなのではないでしょうか。
ルオがジャンに「男なら誰でもいいのか」と聞くシーンがあり、ジャンはそれに「そうだ」と答えます。ジャンにとっては空白を一瞬でも埋めてくれる存在であれば本当に誰でもいいのです。そこには愛はないのだから。
もはや存在しない愛を奪い合う彼らが行き着くところはどこにもありません。彼らに未来は見えず、刹那的に今を共有するしかないのです。
だからそこには閉塞感があります。様々な方向へ向かう情欲と、得られない愛、見えない未来、刹那的に今を共有する歓び、彼らはそれに抗えず、運命のように受け入れるしかないのです。
そうしてみんながもやもやを抱えながら物語が終わっていく感じが非常に現代的でスッキリしないけれど「いい」と感じる映画でした。
『スプリング・フィーバー』が見られるVOD
映画『スプリング・フィーバー』が見られるVODは以下の通りです(2020年5月現在)。
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ロウ・イエ監督の作品群をぜひ。
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