ジワる恐怖と見事な伏線回収、『ゲット・アウト』は人種を描くが純然たるスリラー映画の傑作だ
- 2021.09.08
- 映画レビュー
アフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、恋人のローズの実家に招待される。クリスはローズが「恋人が黒人だと言っていない」というのを聞いて不安になるが、ローズの家族は進歩的な一家だと聞いて一応納得する。
郊外の大きな邸宅についたクリスは、そこで働く黒人の雇い人の様子に違和感を覚え、ローズの弟ジェレミーの粗暴な言動や、それを咎める家族にもどこか違和感を感じるが、ローズのためと我慢をしてその日は眠りにつく。しかし、夜中タバコを吸いに外へ出ようとすると…
コメディアンのジョーダン・ピールが低予算で撮影した初監督作品。全米で大ヒットし、アカデミー脚本賞を受賞した。
じわじわと恐怖が募る
序盤のクリスが感じる違和感というのは、アフリカ系アメリカ人ならではのコミュニケーションが取れない人たちへの違和感で、わたしたちにはわかりにくいところもある。しかし、白人家族の中に入り込んだ黒人ということでアルシュの連帯感を抱くはずがそれが生まれないところに違和感を感じるというのはわかる。
この小さな違和感が積み重なって徐々に怖くなっていくという描写が非常に巧みで、どうしてこの家ではこんなおかしな状況になっているのか頭を巡らせざるを得ないことで、この映画の物語にどんどん入っていくことになる。
何を書いてもネタバレになってしまうので、何も書けないのだけれど、ローズの母親が精神科医でクリスに禁煙のための催眠術をかけようとしたり、週末の友人の集まりの中で見つけた唯一のアフリカ系の男もどこかおかしかったり、どうにもムズムズする違和感が積み重なっていき、それが怖さを徐々に増していくということだけは書いておく。
このジワジワ感がこの映画の最大の魅力だろう。観客は「もしかして?」と思いながら、その予想があたったり外れたりしながら、どんどん恐怖の淵へハマっていくことになる。
すべての伏線は回収される
内容については書けないのだけれど、この映画のもう一つの魅力は、すべての伏線が回収されていくところだ。
この映画には無駄なものは一つもないと言っていいかもしれない。例えば、ストーリーに入る前の、郊外の住宅外でアフリカ系の青年が白いスポーツカーのトランクに押し込まれるシーンにも意味がある。
クリスがローズの家を訪ねて最初に父親に家を案内される「ツアー」で見せられる写真にも一つ一つ意味がある。こういう細部にまで意味をもたせるのは大変なのだけれど、これこそが映画の面白さだ。
この映画はスリラーとかホラーとされる映画だけれど、本当によくできていて大作のサスペンス映画に匹敵する面白さがある。スリラーやホラーを避けがちな人にもぜひ見て、映画の面白さを感じてほしい作品だ。
2017年/アメリカ/104分
監督:ジョーダン・ピール
脚本:ジョーダン・ピール
撮影:トビー・オリバー
音楽:マイケル・エイブルズ
出演:ダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、キャサリン・キーナー
『ゲット・アウト』が見られるVOD
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