3時間の長さを感じさせないロマンティシズム『天井桟敷の人々』

3時間の長さを感じさせないロマンティシズム『天井桟敷の人々』

フランス映画といえば恋やロマンスというイメージがありますが、『天井桟敷の人々』も一人の美女を巡り4人の男が繰り広げる恋物語を描いたロマンティックな作品。とはいえ1945年の時代の世相も反映しているところが名作たるゆえんでもあります。これぞフランス映画史に残る名作! 最後に無料で見られるVODも紹介します。

映画『天井桟敷の人々』の概要

19世紀のパリ、犯罪大通りと呼ばれる通りは今日も人で賑わう。その通りにある劇場に役者になりたいといってやってきた男フレデリック、その彼が通りで目を止めた美女ガランス、その劇場の看板役者の息子バチスト、女優のナタリー、ガランスの友人で犯罪を繰り返しながらも詩人を自称するラスネールといった人々が繰り広げる壮大なドラマ。

物語は2幕からなり、1幕が犯罪大通り、2幕が白い男と題された。プレヴェールの脚本は非の打ち所がなく、カルネの造り方にも隙がない。まさにフランス映画史上指折りの名作。

1945年,フランス,195分
監督:マルセル・カルネ
脚本:ジャック・プレヴェール
撮影:ロジェ・ユベール、マルク・フォサール
音楽:モーリス・ティリエ、ジョセフ・コズマ
出演:アルレッティ、ジャン=ルイ・バロー、マリア・カザレス、ピエール・ブラッスール

3時間以上の長さを感じさせないテンポ

3時間以上の映画ほぼ全編にわたって、あきさせることなく見せつづける。それはこの映画のテンポがとても心地いいから。第2幕の途中で少しスローダウンしてしまうが、そこでようやくこの映画のスピード感に気づく。長い映画にもかかわらず、一般的なドラマよりもテンポが速い。つまり量的には普通の2時間の映画の3倍くらいの量がある(概念的な量ですが)。それでも辟易せずに、勢いを保ったまま見られるのは、そのプロットの巧妙さ。常に見る側に様々な疑問を浮かべさせたまま次々と物語を展開していく。実に巧妙な脚本と周到な映像化のなせる技。

劇中劇が非常に面白いというのも素晴らしい。なんとなく映画の劇中劇というと、おざなりで退屈なものが多く、時間も大体短い。しかしこの映画の劇中劇はすごく面白い。映画の中では一部分しか見られないのが残念なくらい面白い。特にバチストの演じる劇は途中で途絶えてしまったときには「終わっちゃうの?」と思ってしまうほど魅力的だった。

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ロマンティシズムの衝突

この映画の中心にいるのは美女ガランス、彼女に恋をするのはパントマイム役者のバチスト、犯罪詩人のラスネール、俳優のフレデリック、さらにモントレー伯爵。その4者4様のガランスへの想い、彼らが抱える想いを描くその繊細さ、そのロマンティシズムはいまだどの映画にも乗り越えられていないのではないかと思う。

中心となるのはバチストとフレデリックで、他の2人は障害として作られたようなものだけれど、それでもそこには一種のロマンティシズムがある。4つのロマンティシズムの形が衝突し、それを受け止める女は何を想うのか。それをアルレッティが見事に演じた。

個人的に少々不満だったのは、第2幕途中のスローダウンと、ガランスの配役ですかね。ガランスは魅力的だし演技力という意味でアルレッティは適役と思うのだけれど、絶世の美女というわけではなく、(バチストに横恋慕する)ナタリーといい勝負くらいだと思う。絶世の美女という設定は捨てるくらいのほうが、映画に没入できたのではないかと思いました。

そんなことはいってもやはり名作中の名作であることに変わりはなく、何度見てもいいものです。5時間くらいのディレクターズカット版とか、あるわけないけどあったらいいななどと思ってしまいます。淀みなく、美しい。それが永遠に続けばいいのにと思う映画。そんな映画にはなかなか出会えません。

『天井桟敷の人々』を無料で見られるVODは?

3時間以上の長い作品ですが、分けてでも見られるのがVODのいいところ(まあDVDでもそうですが)、週末にでも映画に浸りたいという方はこちらのVODでどうぞ。

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